アウシュヴィッツと詩 2010.9.26 大澤真幸のことば アドルノは「アウシュヴィッツの後は詩は不可能だ」と述べた。この命題を批判的な準拠点にすることで、問題(村上春樹『1Q84』の「空気さなぎ」についての問題)の核心部を明らかにしてみよう。私は、アドルノのこの命題は、間違っていると思う。むしろ、詩こそが、アウシュヴィッツにふさわしい表現様式である。アウシュヴィッツが不可能にしたのは詩ではない。ごく普通のリアリズムの手法にのっとった虚構が不可能になるのだ。『THINKING「O」』第4号より