朝日カルチャーセンター新宿教室にて開催している「現代社会論」。次回は12月16日、目下の戦争とユートピアについて論じます
<今回のテーマ>
今回は、時事的な話題から少し離れ、原理的な問題を考えます。
「当事者研究」という、統合失調症等の精神疾患をもつ患者を「治療」する技術をご存知でしょうか。北海道の浦川にある「べてるの家」で開発され、実践されています。劇的な効果があり、世界中の専門家から注目されています。
今回は、この「当事者研究」をひとつの素材にして、人間の〈言語〉や〈知〉の本質について考えます。当事者研究がどんなものなのかは、講義で説明しますから、知らない人でも何の問題もありませんが、いずれにせよ、講義の目的は、当事者研究について詳しくなることではなく、当事者研究をひとつの鏡として、〈言語〉や〈知〉の本性に迫ることです。
どうして、当事者研究を通じて、こうした問題を解明できるのか。私は、当事者研究がしばしば劇的な効果を発揮するのは、当事者研究を通じて、当事者(患者)は〈知〉と〈真実〉との合致を体験しているからだ、ということに気づきました。
……などと言われても何が何だかわからないかもしれませんが、人間の言語使用においては、一般には(いやほとんど必然的に)〈知〉と〈真実〉が乖離するのです。
たとえば、誰かに何かを言われたとき、「あの人はあんなことを言うことで、ほんとうは何を言いたかったのだろう?」と思うことがあるでしょう。言っていることの文字通りの意味(こちらが〈知〉)と、その人がほんとうに言おうとしていること(こちらが〈真実〉)は別のことだからです。あるいは、何かを語ったとき、語っているとき、「私のほんとうに言いたいことはそれとは違う、うまく言えない」ともどかしく思うときはないでしょうか。このときも、〈知〉と〈真実〉がずれています。
実のところ、〈知〉と〈真実〉の不一致は言語の宿命のようなもので、どんな発話のときにも、多かれ少なかれ、人は両者の間のギャップを感じています。
ところが当事者研究においては、〈知〉と〈真実〉の奇蹟的な合致のようなことが起こる。言わば、〈真実〉の資格をもった〈知〉が生み出されている……という感じです。
当事者研究ではどうして、こんな奇蹟のようなことが起きるのか。そのことを考えていくと、〈言語〉とは何なのか、〈言語〉はいかにして生成されてくるのか、……そうしたことが見えてきます。
生成AIが急速に普及していく中で、あらためて〈言語〉とはそもそも何なのか、生成AIは〈言語〉の中核的な性質を再現することができるのか、等を考える機会としたいと考えています。(講師・大澤真幸記)
日 時:2024年2月24日15時30分〜17時30分
参加費:全1回=会員3,465円/一般4,565円(いずれも税込)/(設備費税込165円含む)
(教室とオンラインのハイブリッド形式で行います)
Vimeoを使用した、教室でもオンラインでも受講できる自由選択講座です(講師は教室)。見逃し配信(1週間限定)はマイページにアップします。各自ご確認ください。お問合せはasaculonline001@asahiculture.comで承ります。
詳細・ご予約は、朝日カルチャーセンター新宿校HP「現代社会論 大澤真幸ゼミナール」で承ります。