岩波書店のPR誌「図書」2017年6月号に、「無調社会を支える調性を問う」と題して、このたびの『岩波講座 現代』の完結に寄せる文章を寄稿しました。
無調社会を支える調性を問う――『岩波講座 現代』は何を目指したか
(中略)
未だかつてないほどに抽象化された第三者の審級、そのような第三者の審級は、完全に偏在的であって、最も強力に人を捕縛する。そのことは、「貨幣」のことを思うと理解することができる。貨幣は、「金」から解放され、ほとんどが信用創造の産物となり、今や電子的に流通しうる、純粋に数字で表示されるだけのヴァーチャルな参照点である。つまり、貨幣の歴史とは、貨幣が物質化された「代理人」から自由になるプロセスである。そのことで人は、少しは貨幣から解放されただろうか。逆であろう。貨幣物神への従属は、貨幣が脱物質化したことでますます徹底したものになった。貨幣について述べたことは、抽象性の極にある現代の第三者の審級に関して一般化することができる。
このような第三者の審級――具体的な代理人とのつながりをもたない第三者の審級――に現代人が捕縛されていることの心理的な現れは、消えない「不安」である。
(中略)
不可視であることによってわれわれをいっそう強力に支配するこの第三者の審級を、明晰に対象化すること、そのことによって、この第三者の審級によって支えられている社会的束縛を解除すること。延べ八六人の執筆者の協力を得て構成されている全九巻が、その総体において、どこに向かおうとしているのか、それを私の観点から解釈し分析するならば、以上のようなことになる。それは成功したのか。少なくとも確実な一歩を踏み出した、と自信をもって言うことができる。
『岩波講座 現代』の詳細については、下記の岩波書店HPをご覧ください。
https://www.iwanami.co.jp/search/s8385.html