「週間読書人」2011年1月14日号で、橋爪大三郎さんが『現代宗教意識論』を書評しています。
最高の時代の診断学 漂流社会の深層に、宗教的心性を探り当てる
神は死に、宗教は社会の表層から消えた。卑近な欲望やマネーゲームが支配するぺらんとした世俗社会。そんな荒涼とした日常を生きる人びとの、深奥の苦悩はどのようなものか。その核心をX線のように照射するのが、宗教を参照点とする大澤氏独自の考察だ。
秋葉原の無差別殺傷事件のように、宗教的表現が希薄で見当たらなくても、そのメカニズム(自己を肯定できるためには、自己を超えた超越的な他者を基点としなければならないこと:引用者)は生きている。犯人は犯行の前日まで、ブログに書き込みを続けた。ブログは日記と違い、不特定の他者が閲覧できる承認の場。つまり、卑俗でも神の審級をもつのだ。
犯罪という哀しい隘路に陥ってしまった決して平均的ではない人びとに、時代の典型的な症状が表れている。それを解読する大澤氏の手並みも、やはり哀しい。ひとが犯罪に惹かれるのは、自分自身の深淵を覗き込みたいからではないか。その構造をも繰り込んだ本書は、最高の時代の診断学だ。
『現代宗教意識論』の目次など詳細は、こちら。